32
宇
そ 宙
ら と君のあいだ
慶應義塾大学文学部 准教授
平石 界
(ひらいし かい)
Profile — 平石 界
東京大学大学院総合文化研究
科博士課程退学。東京大学,京
都大学,安田女子大学を経て,
2015年4月より現職。博士(学
術)。専門は進化心理学。
自分もいい年だし,スカイツリーも開業5年
だし,さすがに年貢の納め時かなと,東京タ
ワーに登ってきました。外階段を上るなどとい
う蛮行は避けて安楽にエレベーターで地上150
メートルへ。目の前に広がる夜景。さすが東
京,360度全方位の圧倒的な街の広がりです。
お約束で自宅を探しましたが見つかるわけもな
く,せいぜいあの辺りが職場かなと分かった程
度。帰ってから某Gマップでビル群の方角と位
置を確認して満足することにしました。
Gマップには本当に感謝していて,時々ふい
に「今日,◯◯で食事されましたね」とか言わ
れると「また今日も個人情報を切り売りしてし
まった……」と嘆息するものの止められませ
ん。まぁ自分ごときのつまらん情報,大した役
には立たんだろうと高をくくっていたのです
が,数は力。Althoffさんたち(2017),世界規
模での運動不足蔓延の原因を調べるために,70
万人分のスマホのGPSと加速度情報を分析し
ました。普段,数十人とか数百人のデータを
扱っている者にはため息が出る力技です。
なかなか興味深い結果で,運動不足の国で肥
満が多いとも限らない。より関係が強かったの
は国内での運動量格差なんですね。例えば差の
小さい国の筆頭として日本が出てくるんです
が,皆が比較的せっせと歩いている。「万歩計」
の名前が元で「一日一万歩」という目安が特に
根拠もないままグローバルスタンダードになっ
たなんて話もあるみたいですし,さすがです
(Servick, 2015)。
格差があるとなぜ肥満が増えるのか。そうい
う国では女性の運動量が特に減りがちだから,
と言うんですね。その理由がまた気になるんで
すが,それは書いてない。ただ,都市の「歩
きやすさ(walkability)」が運動量格差につな
がってるそうです。お店が多いと歩きやすいと
いう話もあり(Sallis, 2016),なんとなく勝手
に納得してしまう感じがあります。ステレオタ
イプ丸出しですが。
もっとも,GPSで個人情報を切り売りしなく
ても,基地局だって虎視眈々と我々の位置を
把握してますよね。それを使ってBlumenstock
さんら一派(2015),ルワンダの携帯ユーザ
150万人のデータを分析しました。まず900人
位のユーザに「お宅に電気きてます?」とか
「バイク持ってます?」といった電話インタ
ビューをして経済状況を割り出す。それとその
人の携帯利用パタンの関連を調べることで,携
帯利用歴から収入を予測する方法を開発したん
ですね。これがまぁ,かなり良いものができて
しまった。例えば,利用歴からその人の家に電
気が来てるか予測してみる。それで夜間の衛星
写真を見てみると,ちゃんとそこに明かりが点
いてる。さすがに個人宅まで分かったわけでは
なく0.55キロ平米単位での分析ですが,ルワン
ダって中国地方くらいの広さありますからね。
それを約740m四方に区切った上で,「この枠
に明かりがあるはず!」ってのが分かってしま
う。通話場所と通話時間くらいの情報から,な
んでそこまで分かっちゃうの? 残念ながら
「予測が狙いで作ったものだから,仕組みは良
く分からない(意訳)」とツレナイ論文でした。
人類が宇宙に進出してから50年。宇宙旅行
をした人はまだ数えるほどですが,個人情報は
すでに,電磁波にのって地球上を飛び回ってい
るんですね。宇宙からの電波を捕まえて自らの
立ち位置を知り,それがまた電波となって飛ん
でどこぞのサーバに溜め込まれる。一方であな
たの発した光を宇宙のカメラが見つめてもい
る。そんな時代でもまだ君は,あいつの正体を
知ることもなく冷たい雨に打たれて泣いている
のでしょうか。